フィンランドの迷信やおまじないを紹介します。
先日「フィンランド人はヨーロッパで最も迷信を信じない国民だ」という話を耳にしました。
フィンランドには魔法がたくさん出てくる叙事詩『カレワラ』があるものの、確かに迷信めいた話は聞きません。
そこで、そんなフィンランドにも迷信やおまじないがあるか調べてみました。
出典は最後にリンクをまとめてあります。
フィンランドの古い迷信、まじない
歯の痛みに熊?
まず、フィンランド公共放送のページにあった、廃れてしまった古いおまじないです。
- 歯の痛みをやわらげるため、熊の爪を使う
- 子どもの乳歯の生え変わりを助けるため、取り出した熊の食道に9回通したミルクを子どもに与える
- Kyy(キュー)と呼ばれる毒蛇を、生きたまま丸太の穴に入れ、泥棒や事故などから住民を守る厄除けにする
- 輪になった枝を2本揃え、恋愛や便秘を治すまじないにする
どれも荒唐無稽に聞こえますが、やはり動物や自然に関するものが多いですね。
熊の食道を使ったまじないで9という数字が出てきますが、フィンランドの精霊信仰を紹介した本『フィンランド・森と精霊と旅をする』によると、熊は9まで数えられ、9人分の力があると考えられていたようです。
9は重要な数字だったんでしょうか?
乳歯なんて放おっておけば、勝手に抜けそうだけど…。抜けて欲しいのは親知らずの方では…。
森の鼻、森のベール、森の乙女
次に『フィンランド・森の精霊と旅をする – Tree People (トゥリー・ピープル) –』という本で紹介されていた迷信です。
かつてフィンランドには「metsännenä(メッツァンネナ/森の鼻)」と呼ばれる病気があったそう。これは森の精霊の怒りに感染した状態を言います。
守護霊の気分をそこねた人は、霊を失い、「森の鼻」という奇妙な病気にかかります。
不安でびくびくし、両目がうずき、肌がかさぶただらけになる奇病です。もしあなたが森でびっくり仰天させられるようなめにあったら、「森の鼻」に感染してしまったかもしれません。
「フィンランド・森の精霊と旅をする – Tree People (トゥリー・ピープル) -」P42
この治療にはtietäjä(ティエタヤ)と呼ばれる賢者(シャーマン)の治療が必要だったそうです。もしくはleppä(レッパ)と呼ばれる木で作った人形に感染した人の血をかけ、森にささげて回復を祈りました。
また「metsänpeitto(メッツァンペイット/森のベール)」という迷信もあったようです。精霊の道をまたいだり、森の主/王であるTapio(タピオ)のご機嫌を損ねると、異世界に連れていかれてしまうとか。
森はときどき人に魔法をかけます。するとその人は「森のベール(metsänpeitto)」に捉えられてしまいます。ベールの内側はあべこべの世界。太陽は西から昇って東に沈み、川は下流から上流に流れ、木のてっぺんは地にあり、人は足を天に向けて歩きます。
「フィンランド・森の精霊と旅をする – Tree People (トゥリー・ピープル) -」P42
ただ、服を裏返しに着るか脱げば、森のベールから逃れられるようです。囚われた人を探す場合も、服を裏返したり、靴の左右を変える必要があります。
ブレアウィッチ・プロジェクト…
また西フィンランドのヴィリヤッカラ村では、森で猟師を誘惑する「森の乙女」と呼ばれる精霊の話があります。人魚とかセイレンみたいですね。
なお、本には精霊に捕らわれてしまった時の対策がより詳しく載っています。心配な人は買ってね。
現代でも残る迷信、まじない、精霊
冒頭にも書いたように、フィンランドでは迷信やまじないは一般的ではないようです。
あったとしても、ヨーロッパ共通のものがメインです。
- 厄除け、幸運が続くことを願って木を叩く
- 左手が痒くなったらお金が入る、右手が痒くなったらお金が出ていく
また英語圏では、くしゃみをした人に「Bless you」と言いますが、フィンランドでは「Terveydeksi(お大事に)」です。健康を気遣っているだけで、特に意味はありません。
ちなみに、「Bless you」はくしゃみをしたら魂が一瞬抜け、悪い霊に身体をとられる、という考えから来たそうです。
家や土地の守り神、Tonttu(トンットゥ)
フィンランド特有(もしくはフィンランド化された)迷信は「トンットゥ(tonttu)」があげられます。
発音はトントゥウではなく、トンットゥッだよ。
トンットゥはサンタクロースの助手と紹介されることが多いですが、それは「ヨウル・トンットゥ」です。ヨウル(Joulu)はクリスマスという意味で、クリスマスに特化したトントゥです。
なおトントゥ=エルフではありません。スウェーデンの「tomt(トムテ)」という妖精が由来で、土地や家の守り神の側面もあるからです。またフィンランドではご先祖さまとして扱われたりもするらしいです。
フィンランドには「サウナ・トンットゥ(サウナの精霊)」もいます。
フィンランド人はサウナ・トンットゥのためだけにサウナを温めることがあるそうです(今の若い人はやらないでしょうが)。また「サウナで大声を出したり、おならをしたらサウナ・トンットゥが怒る」なんて話もあります。
フィンランドの河童?Näkki(ナッキ)
Theodor Kittelsen [Public domain], via Wikimedia Commons
フィンランドには河童のような「Näkki(ナッキ)」という妖怪がいます。ナッキは川や橋、池や井戸に住む意地悪な精霊(妖怪?)で、人間を引っ張ったり、溺れさせたりします。
これは子どもに水遊びの危険を知らせるために作り出されたのかもしれませんね。その姿はカエル、トカゲ、美男美女とも言われています。
夏至の魔法(Juhannustaika)
フィンランドで最も迷信が残っているイベントは夏至祭です。
夏至の魔法を意味する「juhannustaika(ユハンヌスタイカ)」では、主に若い女性が占いに興じます(これらもほとんど廃れていると思います)。
- 夏至祭の夜に井戸や池を覗くと、結婚相手が見える
- 夏至祭の夜に靴を屋根へ投げ、その跡を見ると、どの方向へ引っ越すかわかる
- 夏至祭の焚き火の煙がやってくる人が次に結婚する
- 夏至祭の夜、川で顔を洗うと将来結婚する相手が見える
- 鏡を二枚向かい合わせて覗き込むと、もう一つの鏡に将来結婚する相手が映る
- カッコーが鳴く回数で、結婚するまでの年数がわかる
- 四葉のクローバーを見つけると、結婚運がつく
- 少女が少年のヴィヒタ(サウナで使う白樺の枝を束ねたもの)で太ももを叩き、太ももに残った葉の数えて将来の子どもの数を占う
- 夏至祭の夜に7種類のハーブか花を集めて枕の下に置いて眠ると、将来の結婚相手が夢に出てくる
- 穀物畑で少女が裸で回ると結婚相手が現れ、回った回数と同じ年の後に結婚する
他にも靴下を逆に履く、決まったものだけを身に着け裸で寝れば愛が成就するなど…。
結婚に関するものが多いのは、夏至祭がお相手を見つけるイベントでもあったからでしょう。
2019年のホラー映画「ミッドサマー」も舞台はスウェーデンですが(そして多くの創作が含まれていますが)、夏至祭は若い男女が相手を探すイベントとしても描かれています。
しかも「ミッドサマー」でも9は重要な数字として扱われてるよ。
フィンランド観光局の夏至祭をテーマにした動画は雰囲気が良くおすすめです。妖しさはありますが、ミッドサマーのように怖くはないです(笑)。
ちなみに夏至祭でのイベントに焚き火がありますが、これはコッコ(kokko)と呼ばれます。
幻想的なイメージがありますが、現実には火事にならないよう必ず火消しの人が立ちます。で蛍光のジャケットに興ざめします(笑)。
風が強かったり、乾燥している日はコッコは中止になるよ。
以上!
夫にこの記事に書いたことを「知ってる?」と聞いたら、9割方「聞いたこと無い」と言っていました。やはり時代とともに、廃れて行ってしまうものでしょうね。
(まあ、夫はたまに「知らない」と言って答えを回避するので信用はできませんが…)
では、今回はこのへんで。
Moi moi!
表紙の絵は若干あやしいけど、フィンランド叙事詩カレワラは魔法がいっぱいでてきます。
出典:
Suomalaiset vähiten taikauskoisia EU:ssa
Suomalaisten tonttujen todellinen luonne yllättää – lue erikoiset faktat – MTVuutiset.fi
10 perinteistä juhannustaikaa – keskikesä on rakkauden juhla | ET