移住して1年目の2012年、移民向けのフィンランド語学校に通っていた。
学校には30-40カ国々から来た100人ほどの生徒がおり、うち日本人は2人だけだった。
こんなインターナショナル空間は初めてだったので、毎日おもしろくて仕方なかった。
イライラすることもあったが…。
中でもおもしろかったのが、移民たちから聞く変な日本情報だった。
「日本人は犬食べるんでしょ?」
「子どもに名前を付ける時、お皿割るって本当?」
「日本人と言えばジャッキーチェン!」
「ブッカケ!ヘンタイ!」(これは正しい?)
中国、韓国と混同しているものから、どこから仕入れたのか、かなりトンチンカンな情報まであった。
私は「自分だっていろんな国に先入観を持っているし、間違って覚えている情報もあるだろう」と思い、この手の情報を聞いたらサクッと訂正して、おもしろがることにしていた。
嫌な気持ちになることはなかった。
しかしいくら訂正しても間違った日本イメージを持ち続けるヤツには辟易させらた。
中途入学してきた某国の青年である。
アジア人差別?
フィンランド語コースは約9ヶ月だったが、学期の半ばにとある国の青年がクラスに加わった。
名前はAくんとしておこう。
Aくんはなかなか存在感のある人だった。
声がでかく、初日から「チーーーッス!」という感じで教室に入って来た。「すげえヤツが来た!」とクラス全体がざわついたのを覚えている。
なんとなく、彼を見ると、映画「300」を思い出した。
Aくんは底抜けに明るい人だった。
授業中は「先生!先生!」と元気に手をあげ、冗談を飛ばし(おもしろくない)、若干ウザがられていた面もあった。
しかし親切な一面もあり、すぐクラスになじんだ。
彼が良いヤツなのは間違いなかった。
しかしAくんには差別的な言動をサラッとしてしまう重大な欠点があった。
私に対して、「ホワッチャー!」と叫びながら、カンフーのような動きをしたり、「アジア人ってこんな目だよね」と指で目の吊りあげたり、「チャーチャーチョーチョー」と言ってくることがあった。
アジア人差別かと思ったが、彼はどの国の人にも似たような言動をしているようだった(イタリア人に「マンマミーア!」と叫ぶ的な)。
私は彼を「しょうがない奴」に分類して、無視するようになった。
ただ、毎回注意はした。
差別的な行為であることは間違いないからだ。
「それは日本じゃないよ」「日本人はそんなことしないよ」と。
しかし、ガハハ!と笑って逃げられるのがオチだった。
日本人に合掌する外国人
Aくんの行動で1番イラっときたのが、手を合わせてのお辞儀だった。
他の生徒には「イエーイ、元気!?ハイファーイブ!」と手を上げるのに、私にだけ手を合わせてお辞儀をしてくるのだ。
何度「やめて」と注意しても辞めなかった。
日本人の友人と2人がかりで説明したこともあった。
- 日本では合掌しながらお辞儀をする習慣はない
- 例外的に手を合わせることもあるが、日常的にするものではない
- よって、合掌しながらのお辞儀は日本の挨拶ではありません
じっくり説明した。
でも、辞めない。
その根性に脱帽である。
海外に関わりのある人なら、外国人に同じような指摘をした人もいるだろう。
少し前に、ツイッターで#名画で見る在外邦人というタグが流行り、こんなツイートをしたが、200以上のいいねをいただいた。
日本人だと伝えた途端、手を合わせてお辞儀される
#名画で学ぶ在外邦人 pic.twitter.com/leoTlQrVHz— みんみ🇫🇮フィンランドブログ (@mimmi_nurinpain) May 5, 2018
しかし、Aくんほどしぶといヤツはいないかもしれない。
「これは戦争や」
私はなぜか関西弁で思った。
まさか!裏切り者が世界に
しかし、職業訓練(店や企業で働く体験をする授業)がはじまり、Aくんとの戦いはうやむやになった。
職業訓練が終わった後は、卒業後の進路が気になるころ。
クラスメイトとの交流は薄れて行った。
結局、そのまま2012年終わりに卒業を迎えた。
それからしばらくして、日本のニュースサイトに「東京オリンピック決定!」の文字を見つけた。
そこには、滝川クリステルさんのオリンピック招致のスピーチが紹介されていた。
早速見ることにした。
滝川さんは美しく、落ち着いた声でスピーチを始め「いいじゃん」と思った。
しかし、すぐ「お、も、て、な、し」と言うと、合掌し頭を下げてお辞儀をしたので目を疑った。
滝川さん、それやったらダメなやつ。
私はこのお辞儀が何を意味しているのか解らなかった。
祈りでも、お願いでもない。
「外国人がイメージする日本」を演じたのだろうが、外国人には「敬意を示した挨拶」とも解釈されるはずだ。
Aくんにあれだけ注意したのに~(泣)。
「これは在外邦人に対する裏切りや…。あんさん、余計なことしてくれはったなぁ。」
私はどこの方言とも解らない落胆の言葉を口にした。
Aくんとは休戦状態だと思っていた。
しかし、身内からの裏切り行為により、Aくんの勝利が決定した。
負けられない戦いだったはずなのに…。
私は散った。
せめてもの救いは、当時同じクラスにいたAくんと同郷の女の子だ。
彼女は、Aくんのことを「He is strange.(彼は変)」と言っていたので、相当な変わり者だったのかもしれない。
彼は例外、そう思いたい。
2020年の東京オリンピックでは、合掌お辞儀が行われないことを願う。
…めっちゃ心配。