浪費と散財を疑似体験?中村うさぎ『ショッピングの女王』感想

中村うさぎ『ショッピングの女王』表紙

最初に断っておくが、今回感想を書く中村うさぎの『ショッピングの女王』はヴィーガンでも、エコでも、ミニマリズムでも、エシカルでもない一冊である
(ファーなどが出てくるので、特にヴィーガンの方にはおすすめしません)

では、なぜこの本を読んだかと言うとkindle unlimitedにあったから…。
とまあ、しょもない理由で読み始めたのだが、なんと一気読みしてしまった。

中村うさぎ氏の恐ろしい浪費家っぷりとそこに漂う悲哀に、引き込まれるものがあったのだ。

というわけで、2003年文庫化された中村うさぎ『ショッピングの女王』をレビューしてみよう

あらすじ

買い物依存症がショッピング

断崖に向かって走るレミングの群のように、私の買い物は破滅に向かって突っ走るのだ。

中村うさぎ『ショッピングの女王』

精神科医に「買い物依存症」と診断された、作家中村うさぎ。

本来なら、買い物と距離をおくべきところ。
しかし、週刊文春に連載を持ちかけられ、買い物にまつわる体験談を披露することに。

ブランド品、化粧品、便利グッズから怪しいオカルトグッズまで、税金を滞納してでも古今東西あらゆる物を買って買って買いまくる。
たとえトホホな最後が待ち受けていようとも、中村うさぎの買い物は止まらい!

1998年から1999年に週刊文春で連載された、作家中村うさぎの「買い物」エッセー集。

オフィシャルプロフィール|中村うさぎ公式サイト

『ショッピングの女王』=VR中村うさぎ

ヴァーチャルリアリティ

中村うさぎ氏の文章はとにかく軽快である。

口語体だからか、おどけたタッチだからか、するする言葉が頭に入ってくる。
まるで彼女の思考の流れに、飲み込まれるようだ。

この本で中村氏は、いらない物、しかも高価なものを買いまくる。
28万円もするシャネルのジャケットから、7万8千円もする「幸運を呼ぶネックレス」などというトンデモ商品まで登場する。

しかし、彼女の思考の流れに乗ると、「まあ、買うしかないかな?」と思えるから、相当な文筆家である。

この感覚は感情移入というより「中村うさぎの思考を疑似体験する」と言った方がしっくりくる。
そう、『ショッピングの女王』は「VR*中村うさぎ」なのだ
*ヴァーチャル・リアリティ

VRで彼女のハチャメチャな浪費行動を味わうのが、この本の醍醐味である。

アッパレなのは、最後に「彼女の愚かさ(買い物)を笑って現実に引き戻す」という装置(オチ)まで付いてくる巧妙さだ。

VRゴーグルを外した読者は「バカだなぁ、あんな買い物して。あぁ、これが本で良かった。」と第三者の目線に戻り、己の幸福を味わうのである。

笑いの中に悲哀あり

『ショッピングの女王』は、中村うさぎを疑似体験しつつ、彼女の愚かさ(買い物)を嘲る、いささか不健康なお笑いエッセー集だ。

軽い読み物であることには間違いない。
それでも、グイグイと感情の深みに引っ張られる箇所があったことは、言わねばならない

軽快愉快の中に「読むのがキツイなぁ。悲しいなぁ」と思う要素があるのだ。
例えば、

  • 谷間を作るニセ・オッパイ
  • 痩せるボディシャンプー
  • 小顔ファンデーション

などのコンプレックス解消系の買い物エッセーがそれだ。

気になるものは試しては、効果が無いことに落胆するのがオチになるのだが、笑えるのに、なんだか悲しいのである。

世の中には、金で変えないモノがある。それは、幸せと胸の谷間と髪の毛なのだ。

中村うさぎ『ショッピングの女王』

自分の肉体に✖をつける

コンプレックスは誰にでもあるが...

この悲しみはおそらく、彼女が自分の肉体に「ダメ!美しくない!」と✖印を付けてまわっているからだ。

  • 胸が小さい…自分の胸はダメ、はい✖
  • 太っている…お腹に✖
  • 顔が大きい…はい、顔にも✖

といった感じだ。

自分の肉体を否定して否定して「コンプレックス解消グッズ」を買う様子は、容姿に悩んだことのある読者なら共感できるだろう。
(のちに彼女は美容整形をしている)

とはいえ、多くの人は歳とともに「ありのままの自分も素敵だ」と思えるようになったり、「見た目が全てではない」という価値観を育んで、コンプレックスと折り合いを付けるものだ。
しかし、中村氏は「物理的に形状を美しくするのだ!」とがんばる。

一見、悪あがきだ。
それでも真っ向勝負をかける中村氏を、なんとなく応援してしまうのが不思議である

まったくねぇ、「痩せてなきゃいけない」とか「顔は小さくなきゃいけない」とかさぁ、美人の条件が増えれば増えるほど、こっちはコンプレックスの数も増えてって、ますます金を遣うハメに陥るワケだよなぁ。

中村うさぎ『ショッピングの女王』

エッセーに出てくる「売り手」にも注目

お店には誘惑がいっぱい

ところで最近、うっかり高いものを買わされそうになった(フィンランドでの話)。
家電量販店でカメラを買った時のことだ。

店員に「ついでにメモリーカードも買います。」と言ったら、「そうですか、じゃあこちらの商品をどうぞ!」と商品棚から一つのメモリーカードを選んで、渡されたのだ。
素早い対応だったので「あ…はい」と受け取ってしまったが、値段を見たら他のカードより10ユーロぐらい高い。

値段の違いを尋ねると「これが1番早い。ビデオ撮影にも良い」と言う。
「写真を撮るだけだし、早さはいらないです。この安いやつでも問題ないですよね?」と言ったら「まあ、そうですね。はい。」と返事が返ってきたのでズッコケた。

危うく高いものを買うところであった。
(結局1番安いのを選んだが、問題なく機能している)

似たような経験は何度かあり、「聞かれたら、高めの商品を進める」という手法があるようだ(携帯の料金プランとか)。

売り手も上手

このようなセールスはちょっと気をつければ問題なくかわせるが、断るのが苦手な日本人は、それなりの勇気と経験も必要だ。

さて、このエッセーで中村氏は自らを「カモネギ体質」と呼ぶように、セールスに弱い。
それでも彼女なりに財布の紐を締め、どうにか買わずに済まそうとする。

しかし、売り手だって負けていない。
まんまと中村氏に買わせてしまう話が面白い。

不要な着物の契約をしてしまい、母親と一緒に断りに行く話には腹をかかえて笑ってしまった。
また店舗に仕掛けられている、「衝動買い」のトラップにまんまとはまる中村氏にも笑った。

店員ですらない、友人の「売り切れるよ」の言葉に踊らされる中村氏にはため息しか出なかったが…。

もともと「限定品」とか「品薄」とかって言葉にワケもなく反応して、勝手に緊迫してしまう女王様だ。この「売り切れるよ」の一言に、他愛もなく慌てふためいたね。

中村うさぎ『ショッピングの女王』

彼女、だれかを思い出させるなぁ、と思ったら、マシュマロ実験で真っ先にマシュマロを食べてしまう子どもであった。

マシュマロ実験 – Wikipedia

「今、目の前にあるマシュマロを食べるのを我慢できたら、あとでマシュマロもう1つあげるよ」と言われても食べてしまう。

今マシュマロが食べたいから、食べる。今。
それが中村うさぎ氏なのではないだろうか。

買い物依存症は、やっぱり怖い

買い物依存症は怖い

とまあ、「笑った」などと感想を書いてはいるが、やはり買い物依存症は深刻である

他人事の読者は、VR中村うさぎで豪遊を疑似体験して楽しめるが、本人も、それを支える人にも苦労があるだろう。
彼女の夫は買い物をサポートしているようにも見えるが…。

それにも関わらず、このような連載を持ちかける週刊文春には、首を捻ってしまう。
アルコール依存症の人にお酒の飲み比べエッセーを頼むようなものではないか?

実際、様々な支払いを滞納し、保険証も使えなくなってしまう。

文章が軽いから「いやぁ、まいったまいった」くらいの感覚で読めてしまうが、結構深刻なんじゃ。
うーむ。

不謹慎ギャグが全て嫌いかと言われれば、そんなことは無いのだが、買い物依存症が軽く扱われないことを願う。

こちらで買い物依存症のセルフチェックができる。
必要な人は早めの治療を。

セルフチェック 20の質問 – kaimonorouhi Jimdoページ

『ショッピングの女王』を無料で読むには

ところで『ショッピングの女王』はKindle Unlimitedで読むことができる。
(なぜか今、中村うさぎの本が結構揃っている)

初回だと30日無料なので、お試し読みしたい人におすすめ。
無料期間に解約すれば、お金はかかりません(解約、忘れないようにね…)。

ではまた!

 

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