アカデミー作品賞「シェイプオブウォーター」の卵への違和感【辛口感想】

Shape of water

シェイプ・オブ・ウォーター (字幕版)より

2019年のアカデミー賞授賞式が近づいて来た。

そこでふと、2018年に作品賞を受賞した映画「シェイプ・オブ・ウォーター」を思い出した。
町山智浩さんのレビューで高評価だったので、楽しみにして映画館まで見に行ったのだが、違和感を覚えた作品だった。

なぜ賞を取れたかわからなかったし、この映画は害ですらあると思った。

なかでも気になったのは「卵」の表現だ

そこで、今回は『シェイプ・オブ・ウォーター』の卵表現に違和感を感じた話 + 簡単な感想をまとめた。

なお、吹き替えなしのフィンランド語字幕で見たので、細かいところが読み取れていない可能性もある。
もし何かあったらツイッターで指摘していただけるとありがたい。

ネタバレほぼなし。辛口です。

シェイプ・オブ・ウォーターあらすじ

1962年、アメリカ。政府の極秘研究所で清掃員として働くイライザはある日、施設に運び込まれた不思議な生きものを清掃の合間に盗み見てしまう。“彼”の奇妙だが、どこか魅惑的な姿に心を奪われた彼女は、周囲の目を盗んで会いに行くようになる。幼い頃のトラウマからイライザは声が出せないが、“彼”とのコミュニケーションに言葉は必要なかった。次第に二人は心を通わせ始めるが、イライザは間もなく“彼”が実験の犠牲になることを知ってしまう。“彼”を救うため、彼女は国を相手に立ち上がるのだが——。

映画『シェイプ・オブ・ウォーター』オフィシャルサイト| 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント

主人公が卵をあげる、それは愛?

この映画は半魚人と人間の恋がメインストーリーになっている。
そこで登場するのが、「卵」。
半魚人に主人公イライザが卵をあげ、それを半魚人が食べることで交流がはじまるのだ。

おそらく、イライザが半魚人に卵をあげるシーンは本来ならロマンチックなものだろう。
しかし、私には違和感しかなかった。

なぜなら…勝手に食べ物を与えるんじゃねぇ!と思ってしまったからだ。

卵って結構なアレルゲンだ。
未知の生き物に卵をあげるなんて「は?え?」という感想しか持てなかった。
今まで自然の中で暮らしてきた生き物なのだ。
半魚人は下痢を起こしても、死んでもおかしくない。

主人公が純粋な思いで卵をあげたのはわかる。
しかし純粋な思いで犬にチョコレートはあげてはいけないのとおなじ、愚かな行為なのだ。

この映画には半魚人が虐待される描写もある。
虐待は明らかな悪だ。
しかし、どっちもどっちとまでは言わないが、生き物を苦しめる点で言えば、不用意に食べ物を与えることも結構ヒドイ。

「エサを与えないでください」と書かれた看板を、誰でも一度は見たことがあるだろう。

生き物に知識なく食べ物をあげて喜ぶ行為は、愛ではなく自己満足である
無知は暴力になる。

そのため、卵シーンの後は何を見てもピンと来なくなってしまった。

百歩譲って、そういう常識が無かった時代の設定なんだとしよう。
卵が何かのシンボルであることも解る。
生まれるとか殻を破るって言いたいんでしょう。

しかし、卵をあげる=主人公の優しさと表現しているのにムカムカした。

この辺で、「シェイプオブウォーター」はキライな映画になった。
また私には「卵」がまったく別のものの象徴に見えたこともあり、どんどん嫌になって行った。

卵の象徴するものとは

この映画のテーマは「差別」だろう。

主人公は口がきけない。
友人はゲイで、同僚は黒人女性。
そして、主人公が恋をする半魚人は人間ですらない。

彼らは揃ってマイノリティだ。
恋愛映画でもあるが、虐げられている人々がマジョリティの横暴に立ち向かう話でもある。
ギレルモ・デル・トロ監督のインタビューでもこのメッセージは明らかだ。
もちろんトランプ政権への批判も含まれている。

しかし、この映画は差別を描けているのだろうか?
大いに疑問が残る。

ここでも「卵」が問題になる。

この物語が「人間」が「種」のちがう半魚人を助けるストーリーなのを思い出してほしい。

主人公らが半魚人を助けるのは、半魚人が「痛みを感じ、苦しむ存在」だからであり、イライザがマイノリティである自分を重ねるからでもある。
映画では、半魚人は知能があり、感情を理解することも強調されている。

しかし、主人公のあげた卵を産んだ鶏だって、痛みを感じ、苦しむ存在ではないだろうか。

鶏は飼育され、囚われて生きている(バタリケージを検索)。
卵を産まないオスの雛はすぐ殺される。
殺されて食べられる運命にある鶏は、半魚人の比でなく何億といるのだ。

鶏の卵ほど、この映画に相応しくない食べ物はない。
半魚人は助けて、鶏は助けない。
これが差別でなくて、なんだろう?

主人公が卵をあげる行為は、主人公がまた差別主義者であることを表しているように見えた。

卵の後ろにいる鶏こそ、人々から隠され、差別され、無視されている存在=半魚人ではないだろうか?

この映画のメッセージは素晴らしいかもしれない。
しかし、卵はメッセージと矛盾したアイテムであり、「差別はダメ、でも鶏は…」ということに落胆を隠せなかった。

制作陣はそのことをなにも考えなかったのだろうか…。

まとめ

以上が『シェイプ・オブ・ウォーター』の卵表現への違和感だ。

私はヴィーガンだが映画の食べ物にいちいちつっこんだりはしない。

それでも「自分と異なる存在を助ける話」でこれはどうよ?とガッカリした。
前作『パンズラビリンス』では異界の存在への畏怖を美しく描いていたのに…。

この映画は差別を批判しているように見せて、監督、もしくは私達自身がもっている差別を露呈してしまった作品だと思う
「半魚人は種はちがうけど助けたい、でも鶏は助けなくてもOK」は「口がきけない人は助けるけど、黒人は助けなくてOK」「ゲイは助けるけど、口がきけない人は助けなくてOK」と、いくらでも差別の対象をすり替ることができるからだ。

まあ卵のことは置いておいても、ちょこちょこ気になる場面があって、映画としての完成度にも疑問があった。
セキュリティのザル具合とかさぁ、なんであんな簡単に入れちゃうの…?
フィンランド語字幕だったから、なんか見逃したか?

とにかく、ひさびさに違和感と嫌悪を抱いた映画であった…。

まあ、そういう意味で見て面白い可能性はある。
おすすめ…です?

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※本ページの情報は2019年8月時点のものです。
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そういえば、町山智浩さんが『崖の上のポニョ』で、宗介が海の魚であるポニョを水道水に入れたことを指摘してたけど、卵をあげるのはOKなのか。
町山さんは監督とお友達というのもあるのかな…うーむ。